荒涼

Wild & Cool

2023年7月の近況

過去最高のスピードで過ぎた1ヶ月、という実感。そんななかでもひとつの出来事を記しておきたい。

某日。Amazonプライムデーでウォシュレットを購入。これまで10年近く使っていたウォシュレットの便座にいつからか小さな亀裂が入っており、いずれ繊細な裏腿を挟んで痛い思いをすることになりそうで気になっていた。

到着して数日後の休日、交換すべく着手。まずは既存のウォシュレットの取り外し。以前に一度、設置の経験がある。経験があるので交換もできると油断していた。マニュアルをよく読まず、水道の元栓を閉めぬままウォシュレット本体に繋がっているチューブを引っこ抜いた途端ものすごい勢いで水が噴射。それはもう凄まじい勢いで、一瞬にして服も身体もずぶ濡れ。トイレの床も水浸し。為す術なくせめて噴射先を便器内の水たまりで受け止めさせようと向けるもあっという間に溜まるのでレバーで水を流す。が、またすぐに溜まって溢れ返りそうだ。これでは埒があかない。どうにもできない。完全にパニック状態になっていると、ベランダで洗濯物を干し終わり洗面所に戻ろうとして来た奥さんの悲鳴が聞こえた。

「なに?! なに?!?!」

「ごめん失敗した。まじでやばい」

すぐに家にあるすべてのタオルおよびバスタオルを持ってきてくれたのでそれを床に敷き詰め水を吸収。チューブの先は左手の手のひらに全力で押し当てなんとか止められるようになったがほんの少しでも隙間ができるとここぞとばかりに水が暴れ回る。

「水の110番?! それか管理人さん呼ぶ?!」と聞かれたが、元栓があるはず、それを閉めれば解決のはずなんだけど、この部屋の元栓なのか、あるいはマンション自体の元栓になるのか? マンション自体だったら全世帯の水を止めることになるしそれはまずい、それは避けたい、どうしたものか……などとパニクってるからまともな思考ができない。答えを待たず、奥さんは管理人を呼びにすでに向かったようだ。ちょっと手を離してボンドとかを持ってきて噴射口を固められないか、あるいは何か延長コードみたいので風呂場に噴射先を持って行けないか、風呂場だったらいくら水浸しになってもいいし……などとパニクった頭で考えつつも自分がパニックになっていることは認識できるからみるみる気落ちし、ああ情けない、こういうピンチのときの行動力がおれはまじで弱いな、「パニック」というのはダイビング用語であると昔村上龍の本で読んだことがあったな、などとどうにもならないことばかりぐるぐる考えていると外の廊下から足音が聞こえ、ほどなくして水が止まった。元栓を閉めてもらえたようだ。

絶望と安堵に包まれながら、ぽたりぽたりと水滴を全身から垂らして突っ立っていると、玄関先に管理人が現れ水浸しのおれに向かって言う。

「あんたのところの洗濯機、迷惑してるんだよ」

一瞬、何を言ってるのかわからなかったが、先日案内のあった洗濯機置場の排水溝の高圧洗浄の件かと理解。うちのドラム式洗濯機は防水パンいっぱいの面積をとって設置しているため高圧洗浄するための隙間が足りないという指摘を受けていたのだった。しかしこの状況でまずそれを言うか。

「対応するためには工事費もかかるし」

ああ、なんなんだこのジジイ。怒りが噴射する。水の次に。まじでおれ滑稽だ、ドリフじゃんと思いながら。「あー、お金ですかね。金ならもうこっちで払いますからいいですよ」と返す。

「あとついでに言うけどあんたのところのベランダにあるパラボラアンテナ、あれも禁止なんだよ」

「わかりましたわかりました。このあとすぐ外しますよ」

水が下の部屋に漏れてないか心配だったが、そこまでの浸水は奥さんのタオルのおかげで免れていたので大丈夫そうだった。なんとか冷静さを取り戻し、その後無事交換設置完了。流れでベランダのアンテナも外す。その間、奥さんは優しかった。

「純一さん、自殺するんじゃないかと思ったよ。みんなに迷惑をかけてしまう、もうこのまま溺死するしかないって思ってトイレのドアを閉めて、そこで息絶える、みたいな(笑)」

相変わらず面白いこと言うなぁと思った。そしておれはそんなふうに思われる人間なのかと情けなかった。

奥さんの行動力に助けられた、そんな夏の一日。マニュアルは事前にちゃんと読まないと。