荒涼

Wild & Cool

言葉は伝染する

ある人の語彙、ある人が使っていた言葉が、その語彙を備えていなかった別の人に、うつることはよくある。ウイルスのように。

言葉の伝染がウイルスの伝染と違うのは、伝染して他者に使われるようになった言葉は、他者から伝染されたものであるとは気づかれず、もとから自分の中にあった語彙であるかのように振る舞う点である。ウイルスに伝染して病気になった者は、誰か(外部)からうつされたと考えるだろうが、言葉に伝染した者は、それをうつされたものだとは認識せず、ただその語彙を獲得して使用する者になるのみである。

共通点としては、症状が現れるということである。ウイルスに感染した者には、そのウイルスが引き起こす特有の身体症状が顕在的に現れる。他方、言葉に感染した者は、はたから見てもこれといって症状は認められないが、当人の世界認識の変化として潜在的に現れる。その変化は、その人のコミュニケーションや行動を、当人も知らぬうちに変えていく。

ある事象があり、それを対象化するための言葉が用意されていないとき、手持ちの言葉を用いて粗い解像度でコミュニケーションせざるをえないが、その事象を言い表すためのより適切な言葉と出会った者は、分節の手立てを得、その言葉を用いてより対象に迫れるようになり、結果コミュニケーションの解像度も上がる。

言葉を獲得することによって、それまで未分化だった事象をその言葉で照らし出し、対象化することができようになる。対象化されるやいなや、その事象を捉える認識のメタ度は上がり、ホリスティックに捉えられるようになる。言葉にはこのような効果がある。

この効果を利用して、組織文化を変えることができる。ある文脈を共有した同一空間内に所属している人たちは、分節のためのレセプターをもともと備えている。そのレセプターは、同一空間で一定期間ある共通の事業に取り組むことで備わる。解像度を上げうる言葉を試し試し使用していると、レセプターにはまればそれは一気に組織内に広がる可能性がある。蔓延すると、組織は知らぬうちに変わっていく。組織文化を変えるための、1つの気軽な方法。